
再発防止策が「気をつけます」で終わると、同じミスはまた起きます。人の注意は疲れや忙しさで必ず落ちるからです。直すときは「どこで止めるか」と「すり抜けたら誰がどう拾うか」の二つを、仕組みとして書きます。
ミスが起きるたびに謝り、反省し、「今後は十分に注意します」と書く。少しして、同じミスがまた起きる。小さな会社や先生業の現場で、この繰り返しを何度も見てきました。
この記事では、一般社団法人アインの荒屋明神として、僕が「気をつけます」を対策として認めない理由と、再発防止の書き直し方を説明します。社員が数人の会社、ひとりで事業を回している経営者、教室やサロンの運営者に向けて書いています。
再発防止策が「気をつけます」で終わるのはなぜ?
理由は単純で、それがいちばん早く書けて、誰も傷つかない答えだからです。ミスをした本人は反省を示したい。周りも責めたくない。その結果、全員が納得する一行として「気をつけます」が残ります。
ところが、この一行には「次に何が変わるか」が一つも書かれていません。変わったのは本人の気持ちだけです。気持ちは、忙しい日や疲れた日には簡単に元へ戻ります。だから同じ条件がそろえば、同じミスがまた起きるわけです。
しかも同じミスは、別の人にも起きます。新しく入った人、代わりに作業した家族、外注先。本人が本当に気をつけていても、仕組みが変わっていなければ、次の人は同じ落とし穴に落ちます。

「人は必ず間違える」と考えると、何が変わる?
僕がこの考え方を身につけたのは、以前勤めていた医療機関でした。そこの理事長は、こう言っていました。「ヒューマンエラーは絶対に起きる。属人化したエラーを精神論で防ぐことはできない」。属人化とは、特定の人の注意や記憶に頼っている状態のことです。
医療の現場では、ミスや「ひやり」とした出来事をインシデントレポートという報告書に書きます。そこでは「気をつけます」「頑張ります」は対策として認められません。突き返されます。書いてよいのは、次の二つだけでした。
- どういう仕組みにすれば、そのエラーが防げるか
- どういう対策を置けば、起きてしまったときのセーフティネット(受け止める網)になるか
人は必ず間違える、という前提に立つと、問いが変わります。「誰が悪かったか」ではなく、「どこで止められたか」「落ちたときに何が受け止めたか」を考えるようになります。犯人探しをしない分、報告も出やすくなりました。
この話は、AIを入れたのに仕事が減らないのはなぜ?の記事でも少し触れました。今回は、AIに限らず、日々の仕事のミスをどう書き直すかに絞って説明します。
仕組みで防ぐ対策には、どんな種類がある?
対策は、大きく二層に分けて考えると整理しやすくなります。一つ目は、ミスが起きる手前で止める「防ぐ仕組み」。二つ目は、それでもすり抜けたときに被害を小さくする「受け止める網」です。
| 層 | 役目 | 小さな会社での例 |
|---|---|---|
| 防ぐ仕組み | ミスが起きる手前で止める。そもそも間違えられない形にする | 申込フォームの必須の欄を空のまま送れないようにする/見積書の金額は、手で打たずに表計算シートの料金表から引いてくる/資料の置き場を一つのフォルダにまとめ、古い版は「旧」フォルダへ移す |
| 受け止める網 | すり抜けたミスを早く見つけて、被害を小さくする | 送信前に別の人が見る順番を決める/毎週決まった曜日に未対応を数える/お客さんへの返事が2日止まったら知らせる |
| 気持ち(対策にならない) | 本人の注意に頼る | 気をつける/確認を徹底する/意識を高める |
「防ぐ仕組み」の基本は、間違えられる選択肢そのものを減らすことです。古い料金表が置き場に残っていれば、いつか誰かが使います。似た名前のファイルが二つあれば、いつか取り違えます。古い料金表は消すか「旧」のフォルダへ移し、置き場には最新の一枚だけを残す。人に正しいほうを選ばせるのではなく、正しいほうしか選べない形にしておく。これがいちばん安く、いちばん長く効く対策です。
多くの現場は、一層目だけを考えて、二層目を置いていません。防ぐ仕組みは、どれだけ作っても漏れます。漏れたときに受け止める網があるかどうかで、ミスが「小さな手戻り」で済むか「お客さんからのクレーム」になるかが分かれます。

受け止める網(セーフティネット)は、どう作ればいい?
網の役目は、ミスを完全に防ぐことではありません。起きたミスを、お客さんに届く前に、なるべく早く見つけることです。作り方は、次の三つを決めるだけです。
- 何を数えるか。「返事をしていない連絡」「期限を過ぎた作業」「送ったつもりの資料」など、漏れると困るものを一つ選ぶ。
- いつ数えるか。毎朝、毎週月曜など、決まった時刻にする。思い出したときに数える形は、忙しい時期に止まります。
- 見つけたら誰が拾うか。見つけた人が自分で直すのか、担当へ渡すのかを先に決める。決まっていないと、見つけたことが記録されるだけで終わります。
僕は今、自分の仕事の漏れを、注意ではなく数で見ています。決まった時刻に、返事が止まっている連絡や期限を過ぎた約束を数えて一覧にし、残っていれば目立つ色で知らせる形です。表計算シートで、期限を過ぎた行の色が変わるようにするだけでも、同じことはできます。自分の記憶をあてにしない前提で組んであります。
数えるものは、件数のように誰が見ても同じ答えになるものを選んでください。「ちゃんと対応できているか」のような聞き方では、忙しい人ほど「たぶん大丈夫」と答えます。「返事をしていない連絡は何件か」と聞けば、ごまかしようがありません。
網は、最初から立派なものでなくて構いません。紙のチェック表でも、共有の表計算シートでも十分です。大事なのは、人の気分ではなく、決まった時刻に必ず回ることです。
「気をつけます」の報告書は、どう書き直せばいい?
書き直し方は、三つの問いに答える形にするのがおすすめです。一行の反省文を、次の三行に置き換えます。
| 問い | 書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 何が起きたか | 事実だけ。誰が悪いかは書かない | 見積書の金額が、古い料金表のまま送られた |
| どこで止めるか | 防ぐ仕組み。次から何が変わるか | 古い料金表を置き場から外し、見積書は最新の表からだけ作れる形にする |
| 落ちたら誰が拾うか | 受け止める網。いつ、誰が見つけるか | 見積書を送る前に、金額だけを別の人が料金表と見比べる |
ポイントは、二行目と三行目に「注意」の言葉を入れないことです。「〇〇さんが気をつける」は、また気持ちに戻っています。拾う人は、名前ではなく役目で書きます。「送る人とは別の人」「その日の受付担当」のように書いておけば、人が替わっても網は残ります。
三つ目の行が空欄のまま、という報告はよくあります。防ぐ仕組みを一つ足して満足してしまうからです。網まで書けて、はじめて再発防止が書けたと言えます。

よくあるミスを、三つの問いで書き直すとどうなる?
小さな会社でよく聞くミスを、三つの問いで書き直してみます。ここに挙げるのは、僕が考えた書き直しの例です。自社の作業に合わせて、止める場所と網を入れ替えてください。
例1:お客さんへの返事を忘れていた
起きたこと:問い合わせのメールに三日間返事をしていなかった。止める場所:問い合わせは個人のメールではなく、info@ のような共有のアドレスに届くようにして、全員が見られる形にする。受け止める網:毎朝、返事をしていない問い合わせの数を数え、一件でも残っていれば午前中に担当を決める。
「メールをこまめに見ます」と書きたくなるところですが、それは気持ちです。届く場所と、数える時刻を決めるほうが確実に効きます。
例2:予約が二重に入っていた
起きたこと:同じ時間に、二人のお客さんの予約が入っていた。止める場所:予約を書き込む先を一つの予約表にまとめ、手帳と別のカレンダーの二本立てにしない。電話で受けた予約も、その場で同じ予約表に入れる。受け止める網:前日の夕方に、翌日の予約を一覧で見直し、重なりがあればその日のうちに連絡する。
二重予約は、入口が二つあるときに起きやすいミスです。入口を一つにすること自体が、防ぐ仕組みになります。
例3:請求書を出し忘れていた
起きたこと:月末に出すはずの請求書を、一社分出していなかった。止める場所:請求先の一覧を一枚にまとめ、その一覧から請求書を作る形にする。受け止める網:毎月決まった日に、一覧の件数と送った請求書の件数を数えて比べる。
件数を比べるだけなら、数分で終わります。数が合わなければ、どこかが漏れています。中身を一件ずつ思い出すより、ずっと早く見つかります。
どのミスから仕組みにすればいい?
全部のミスに仕組みを作ろうとすると、仕事が仕組みで埋まってしまいます。手をつける順番は、次の表のように「起きたときの痛さ」と「起きる回数」で決めると迷いません。
| 痛さ/回数 | よく起きる | たまに起きる |
|---|---|---|
| お客さんやお金に響く | 最初に仕組みにする(防ぐ仕組み+網の両方) | 網だけでも先に置く |
| 社内で直せば済む | 防ぐ仕組みを一つ足す | まずは様子を見る |
お客さんへの連絡、お金、約束した期日に関わるミスは、回数が少なくても網を先に置いてください。起きてから信頼を取り戻すのは、仕組みを作るより何倍も時間がかかります。
ミスが多い人ほど、仕組みづくりに向いている?
僕はそう考えています。少し逆説的に聞こえるかもしれません。
仕組みを作る力は、才能では育ちません。「気をつけたのに防げなかった」という失敗をどれだけ抱えているかで育ちます。失敗が少ない優秀な人は、仕組みを作る必要に迫られません。「気をつけます」のまま、何年もやれてしまいます。
僕自身は、抜け漏れが多い人間です。人からもらったお茶を店に置き忘れて、あとから遠くまで取りに戻ったこともあります。メガネを家の中でなくすのも、一度や二度ではありません。気をつけても直らないので、道具と仕組みのほうに寄せるしかありませんでした。
医療機関での経験も含めて、僕は誰よりも失敗が多かったと思います。医療機関で働いていたころから今までの約十年、その失敗の数が、仕組みで考える癖を強制的に鍛えてくれました。社員のミスが多くて悩んでいる方は、それを責める材料ではなく「仕組みを作る材料が人より多い」と読み替えてみてください。

小さな会社では、ミスをどこで拾えばいい?
大きな会社のような品質管理の部署は、小さな会社にはありません。そのかわり、人数が少ない分、ずれに早く気づける強みがあります。
僕が以前運営していたチームでは、15日ごとに「ズレ修正日」という時間を取っていました。仕事の進め方や頼み方のずれを、もめごとになる前に話して直すための時間です。週二回の定例ミーティングも、目的欄に「お互いのズレを修正し、不快感をできる限り減らすため」と書いて続けていました。数年間、毎回同じ目的で回していた時間です。
面白いのは、「不快感がたまっている」こと自体を、異常のサインとして扱っていた点です。チームでは、急いで手を打つべき状態を段階に分けて決めていました。そのいちばん軽い段階が「お客さんからのクレームが起きそう」「メンバー同士の不快感がたまっている」です。頼みにくい、聞きにくいという空気は、連絡漏れや確認漏れの手前に出てきます。ミスが表に出る前に、もやもやの段階で拾うためでした。
人数が少ない会社ほど、一人ひとりが複数の仕事を抱えています。誰か一人のもやもやは、そのまま仕事の抜けにつながります。だから小さな会社では、ミスそのものより一歩手前の「話しにくさ」や「ずれ」を拾う場を、決まった間隔で持っておくのが効きます。
当時の記録には「理想は、ミスしたくてもミスできない仕組みづくり」という言葉も残っています。完全にはできなくても、その方向を全員が向いているだけで、報告の質が変わりました。
仕組みを作っても、ミスがゼロにならないのはなぜ?
人が関わる限り、ミスはゼロになりません。仕組みを作る目的は、ゼロにすることではなく、同じミスを二度起こさないことと、起きたときの被害を小さくすることです。
ここを取り違えると、「仕組みを作ったのにまたミスが出た。やっぱり意味がない」と、仕組みそのものを捨ててしまいます。ミスが出たら、それは網がどこで破れているかを教えてくれる材料です。網を一か所繕えば十分です。
もう一つ大事なのは、完璧を目指さないことです。完璧な仕組みを目指すほど、作るのに時間がかかり、守れなかったときの落ち込みも大きくなります。僕は「雑でも大丈夫」な形にして、失敗したときの落ち幅を先に小さくしておくほうを選びます。たとえば確認の表は項目を三つまでにして、抜けても致命的にならないものは最初から載せません。
作った仕組みが続かないのは、なぜ?
仕組みが続かない理由は、たいてい三つのどれかです。一つ目は、作った本人しか中身を知らないこと。その人が休むと、網も一緒に止まります。二つ目は、手間が大きすぎること。毎回十五分かかる確認は、忙しい週に真っ先に飛ばされます。三つ目は、回っているかを誰も見ていないことです。
対策も三つです。仕組みは一枚の紙か一つのシートに書いて、誰でも見られる場所に置く。一回の確認は数分で終わる大きさにする。そして、網が回っているかを確かめる日を、別に決めておく。仕組みを守る仕組みまで置いて、ようやく続くようになります。
人の頑張りで回している仕組みは、頑張りが切れた日に止まります。決まった時刻に、決まった手順で、誰がやっても同じ結果になる。そこまで落とし込めているかを、ときどき見直してください。
今日から始めるなら、何から手をつける?
最初から全部を仕組みにする必要はありません。直近一か月で、いちばん困ったミスを一つだけ選んで、次の順に進めてください。ここからは、僕が実際にすすめている進め方です。
- 起きたことを書く。誰が悪いかは書かず、事実だけを三行ほどで書きます。
- 止める場所を決める。どの作業の、どの時点で止められたかを一つ決め、そこを「間違えられない形」に変えます。
- 受け止める網を張る。何を、いつ、誰が数えるかを決めます。紙の表で構いません。
- 次の月に確かめる。一か月後、同じミスが起きていないか、網が実際に回っているかを見ます。
四つ目を飛ばすと、決めたことが少しずつ忘れられます。確かめる日も、最初に予定へ入れておいてください。仕組みを作るのと同じくらい、仕組みが回っているかを見ることが大切です。

この記事のまとめ
「気をつけます」は、気持ちを表す言葉としては大切です。ただ、再発防止策としては何も変えていません。人は必ず間違える、という前提で考え直してください。
再発防止は、「何が起きたか」「どこで止めるか」「落ちたら誰が拾うか」の三つで書きます。防ぐ仕組みだけでなく、すり抜けたときに受け止める網まで置いて、はじめて同じミスが減っていきます。
ミスが多いことは、恥ではありません。仕組みを作る材料が人より多いということです。まずは直近のミスを一つ選んで、この記事の三つの問いで書き直してみてください。
よくある質問
ミスをした社員を注意しないのは、甘くないですか?
注意はしてかまいません。ただ、注意を再発防止策として記録するのはやめてください。本人への声かけと、仕組みの変更は別のものです。記録に残すのは仕組みの変更だけにします。
ダブルチェックをすれば十分ではありませんか?
ダブルチェックは受け止める網の一つで、効果があります。ただ「二人とも見たつもり」になると網が破れます。二人目は何を、何と見比べるのかまで決めておくと、確認が形だけになりにくくなります。
ひとりで事業をしていても、仕組みは作れますか?
作れます。むしろ、ひとりのほうが自分の記憶に頼りがちなので、効果が出やすいです。送る前に見る表、毎週月曜に未対応を数える習慣など、自分のための網から始めてください。
マニュアルを作れば、ミスは減りますか?
マニュアルは「防ぐ仕組み」の土台になります。ただ、読まれないマニュアルは気をつけますと同じです。間違えやすい一点だけを、作業の画面や置き場そのものに書き込むほうが効くことがあります。
仕組みを増やしすぎて、仕事が重くなりませんか?
なります。だから、困ったミスから一つずつ足してください。一か月見て、何も拾っていない網は外して構いません。仕組みも、使われていなければ見直しの対象です。
AIを使えば、ミスはなくなりますか?
なくなりません。AIも読み飛ばしや勘違いをします。AIに任せた作業にも、人の仕事と同じように、止める場所と受け止める網が必要です。詳しくはAIと人の役割分担の記事で書いています。
ミスの報告が上がってきません。どうすればいいですか?
報告すると責められる職場では、ミスは隠れます。報告書に「誰が悪いか」の欄を置かず、「どこで止めるか」「誰が拾うか」だけを書く形にすると、出しやすくなります。報告してくれたこと自体を、まず受け止めてください。
自社の再発防止の進め方を、相談できますか?
できます。最近困ったミスを一つ教えてもらえれば、どこで止めて、どこに網を張るかを一緒に整理できます。
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相談したい方へ
同じミスが繰り返されて困っているなら、どこで止めて、どこで受け止めるかを一緒に見ませんか。現状を教えてください。先に自分で確かめたい方には、数分でできる診断があります。
執筆・監修:荒屋明神(一般社団法人アイン 代表理事/外部戦略実行責任者)。最終更新:2026年10月21日(現行の外部CSEOのページの記載に基づく)